第90章

稲垣栄作は人の心をよく知っていた。

彼は高橋遥と何年も寝を共にしてきた。彼女が何を好むか、彼が一番よく分かっていた。

女性を喜ばせることに抵抗がなかった。

高橋遥が彼に追い詰められ、欲しがる姿には、ある種の脆い美しさがあった。残念ながら、あの夜は彼女の気持ちを考慮して、思う存分楽しむことはできなかった……

今、彼女は彼の腕の中で、わずかに震えていた。

彼女が葛藤していることを彼は知っていた。愛と無関心の間で揺れ動き、彼との境界線を引きたいのに、彼の優しさに抗えない。高橋家の没落が、彼女の弱さが、彼にチャンスを与えていた。

稲垣栄作は彼女にさらに近づき、片手で彼女の肩を抱き、もう片...

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